今週、デジタルツイン関連の記事を追っていて一番刺さったのは、RIETIのコラムのタイトルだった。「デジタルツインは、壊すために使う」。うちの部署でBIMモデルを「竣工後の維持管理に引き渡そう」と話し合っている最中に、この言葉は結構重い。作って渡して終わり、じゃないのか、と。
製造・物流・プラント側の動きも活発で、ゼネコンでBIM推進をやっている立場からすると、正直「先を越されている」感覚がある。今週の記事を建築側の視点で整理してみます。
今週のデジタルツイン、3つの動き
1. 「壊すために使う」という発想の転換
コラム「デジタルツインは、壊すために使う」(RIETI)のタイトルが示す通り、デジタルツインは「現実を精緻に写す鏡」ではなく「現実では試せない破壊的な条件を回せる砂場」として意味を持つ、という論調。建築で言えば、震度7を実物で試せない代わりにモデルで壊す、施工手順を10通り走らせて一番早いものを選ぶ、といった使い方が本命だと思ってます。
2. プラント・物流ではもう実装フェーズ
コスモ石油の製油所デジタルツインではAI予兆保全で稼働率を上げる話が出ていて、YEデジタルとNVIDIAの協業ではOmniverse上で物流搬送のデジタルツインを組み立てる話が出ている。日立の徳永社長も2040年の労働力不足を「フィジカルAI」で埋めると語っていて、現実世界を動かすためのツインという位置付けが強い。
建築だと竣工モデルの引き渡しでゴール、みたいな話になりがちだが、他業界は完全に「運用中に動かし続けるモデル」を前提にしている。この差は大きい。
3. Autodesk University 2026の会場から
AU2026のレポートではデジタルツイン関連ブースの熱気が伝えられていた。落水荘の再現展示のような象徴的な展示と並んで、実務向けの連携ソリューションが多かったようで、Revit中心のワークフローから一歩踏み出す提案が並んでいた印象。詳細は別途追いかけたい。
ゼネコンBIM担当としての独自考察
うちの会社で一貫BIMを回そうとすると、いつも詰まるのが「モデルの粒度」と「更新責任」の2点。設計LOD300で作ったモデルを施工にそのまま渡しても納まらないし、施工で更新したモデルを維持管理に渡そうとすると、今度は情報が多すぎて発注者が持て余す。
今週の記事を読んで思ったのは、「竣工モデル=デジタルツイン」ではないということ。RIETIのコラムが言う「壊すため」の発想を借りるなら、うちの現場でまず試せそうなのは施工計画段階のシミュレーションだと思ってます。タワークレーンの盛り替え手順、山留の切梁架け替え、大型プレキャストの揚重順序。実物では一回しか試せない工程を、モデル上で20回壊して最適解を選ぶ、という使い方。これなら既存の施工BIMの延長で入れられるし、協力会社との事前調整資料としても効く。
一方で、コスモ石油のような予兆保全型のツインを建物に持ち込むのは、正直まだハードルが高い。センサー実装のコストを誰が持つのか、収集データを誰が解析するのか、発注者側にその運用体制があるのか。設備側から少しずつ、というのが現実解になりそう。
社内標準化の観点だと、「ツイン用のモデル」を別に定義するのではなく、施工BIMの属性設計時点で「後段で壊すことを想定した情報付与ルール」を仕込んでおく方が現実的だと思う。運搬経路の重量制限、部材の取り付け順序IDなど。これは来期のテンプレ改訂で入れたい。
まとめ
デジタルツインという言葉は建築業界でもよく聞くけど、他業界は「動かすため」「壊すため」の道具として使い始めている。うちが「渡すため」で止まっていると、5年後にはかなり差がつく気がしてます。まずは施工計画のシミュレーションから、来月の現場ヒアリングでネタを拾ってこようと思う。