先週、社内の意匠担当から「竣工した物件の内観を、発注者向けにブラウザで自由に歩けるようにできないか」と相談を受けました。点群だと重いし色も汚い、パノラマだと視点が固定される。そこで頭に浮かんだのが3D Gaussian Splatting(3DGS)です。今週は関連論文とツールがまとまって出てきたので、業務目線で整理しておきます。
今週の3DGS周辺トピック
「見た目」と「形状」を両立させる動き
3DGSは絵は綺麗だけど深度と表面がぐちゃぐちゃ、2DGSは表面は綺麗だけどテクスチャが眠い。この長年のトレードオフに、今週は2本の論文が別アプローチで切り込んでいました。
- 【論文解説】EGGS:2DGSと3DGSを「交換可能」にして見た目と形状を両立するGaussian Splatting(NeurIPS 2025)では、学習中に2Dガウシアンと3Dガウシアンを入れ替え可能にし、周波数分離で高周波は3D、低周波は2Dに割り当てる設計を採っています。
- 【論文解説】DDGS:2Dと3Dガウシアンを使い分けて表面再構成を高精度化するは、「平らな所は2D、立体的な所は3D」と局所形状で次元を自動判別する方針です。
建築で欲しいのはまさにこの両立です。壁・床・天井のような平面が主体の空間で、設備配管や什器の凹凸だけ立体的に取れるなら、後工程でメッシュ化した時の使い勝手が全然違ってきます。
作る側のツールが揃ってきた
もう一つ目についたのが、手を動かせる環境の整備です。
- スマホ動画から3D Gaussian Splattingを作る:Windows + WSL2でCOLMAP→3DGS→.splatまで自動化するは、現場担当がスマホで撮った動画を、WSL2上のパイプラインで.splatまで一気通貫で吐き出す構成です。前処理のCOLMAPについてはCOLMAP入門で丁寧に解説されています。
- spirula-studioはPython/PyTorch不要の単体バイナリで、NVIDIA/AMD/Intel/AppleのGPUをVulkan経由で叩き、8GB VRAMで10Mガウシアンを学習できるとのこと。動画→splat→テクスチャ付きメッシュまで一つで完結します。
個人的にはspirula-studioが気になっています。協力会社のPCにPython環境を入れさせるのは現実的にハードルが高いので、exe一つで動くのは効きます。
用途側の広がり
GaussianNexus(UIST 2025)は再学習なしで部屋スケールのAR/VRテレプレゼンスに3DGSを持ち込んだ研究です。Roblox上での織田邸のデジタルアーカイブ化のように、文化財や既存建物を保存・共有する用途も動き出しています。
ゼネコンBIM担当としての独自考察
3DGSを社内で使うなら、まず「BIMモデルを作る前の入力」と「竣工後の記録」の二か所が現実的だと思ってます。
一つ目は既存改修案件の現況把握です。うちの現場だと、改修の初期調査でレーザースキャナを持ち出すほどの予算はないけれど、写真だけだと納まり検討で足りない、という物件がかなりあります。設計担当と施工担当で「あの梁下、何ミリだった?」というやり取りが今も続いています。ここにスマホ動画からの3DGSが入れば、少なくとも寸法感の共有はできます。ただし3DGS単体は寸法の担保がないので、既存図とスケール合わせをする運用ルールが要ります。EGGSやDDGSのように表面がまともに取れるなら、Revit側にメッシュとしてリンクさせて、あくまで「参照ビュー」として扱う使い方が現実解かなと。
二つ目は発注者への引き渡し資料です。竣工写真アルバムとBIMモデルの間に、「歩き回れる竣工記録」を挟むと発注者の食いつきは全然違います。実際、先日パノラマで納品した物件で「これブラウザで見られるの助かる」と言われたのが印象的でした。3DGSなら視点自由度が上がるので、維持管理フェーズでの現況確認にも耳を貸してもらえるかもしれません。
導入ハードルは正直に言うと三つ。GPU環境の確保、撮影者のスキル差(手ブレとカバレッジで品質が露骨に変わる)、そして社内標準への組み込みです。特に三つ目が重い。うちのBIM標準では「モデルに含める情報」の定義はあっても、「モデル外の参照データをどう扱うか」の規定がありません。3DGSデータをどのフォルダに、どの命名で、誰が更新するのか。ここを決めないと、便利ツール止まりで終わります。
総括
今週の動きを見て、3DGSは「綺麗な見た目」から「使える形状」へ一歩進んだ印象です。表面再構成の精度が上がれば、点群の代替やBIMの補助資料として業務に食い込む余地は十分ある。とはいえ、まずは自分の手で改修案件の一つを撮って、Revitに載せるところまでやってみるつもりです。標準化の議論はその後で。触ってから決めます。